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『内なる世界――インドと日本』【在庫切れ】
池田大作 カラン・シン
1988年6月
現代を支配している「物質主義」を乗り越えるには――世界ヒンディー語財団会長と語った「精神文化復権への道」。ヒンドゥー教と仏教の思想的淵源、社会への影響を比較しながら、「人間の真の姿を見失った文明」に警鐘を鳴らす。
内容
序 文
私たち両著者が初めて会ったのは、1979年2月のことであった。この時、池田大作はICCR(インド文化関係評議会)の公式招待によりインドを訪問し、ICCR副会長を務めていたカラン・シンと会ったのである。
翌1980年10月、その返礼として、池田大作がカラン・シンを日本に招き、両者はさらに友情を深めるとともに、この時の語らいのなかから、対談集をまとめることが合意されたのである。
カラン・シンは北インドのジャンム・カシミールの藩王を父として生まれ、カシミール、デリー両大学で学んだ。その宗教的素養はインド古来のヒンドゥー教によって培われたものである。池田大作は日本の東京に生まれ、創価学会インタナショナル(SGI)の会長であり、日蓮大聖人の仏法を基調として平和・文化・教育の運動に挺身してきた。
仏教はその源をインドの釈尊に発しており、中国、日本において数多くの分派が生じたなかにあって、日蓮大聖人の教えは源流たる釈尊の思想に純粋に立ち返るべきことを他の誰よりも強く訴えた。本源に立脚することによって、時代に即応した最も独自の宗教思想を生み出したといってよい。
カラン・シン自身は仏教徒ではなくヒンドゥー教徒であるが、仏教発祥の国の教養人として、仏教経典に頻出するさまざまな象徴や世界観、人間観は深くなじんできたところである。両者の語らいは大河の源と河口のごとく遠く離れて見えながら、多くの点で親近性と一致点を見いだしたのである。
はるかな遠い昔、ヒンドゥー教の原初の段階というべきヴェーダの宗教、そこから発展したウパニシャッド哲学が支配しているなかから、釈尊は人類史上に特筆すべき偉大な精神文化の種子を生み出した。この種子は、インドに壮麗な文化の花を咲き薫らせたのみでなく、中国、チベット、ビルマ、タイ、インドネシア、朝鮮、日本と、ほぼアジア全域にわたって、それぞれに特色のある華麗にして豊饒な文化を開花させたのである。
今日、仏教発祥の地インドでは、仏教徒は少数である。しかし、釈尊は偉大な聖者として崇められ、その由緒ある遺跡は、神聖な地として大事にされているように、その思想的遺産は、インド民衆、さらにアジアの人々のなかに深く残され伝えられている。
仏教発祥の地に生まれたカラン・シンと、それが到達した果ての地である日本に生まれた池田大作と、この二人は、これほどの地理的隔たりがあり、一方はヒンドゥー教、他方は仏教という異なりはありながらも、考え方や知識の深い底流においては、多くの相通ずるものを見いだし合ったのである。なかんずく、両者が共鳴したのは、科学技術が驚異的発達を遂げ、巨大な力を手にしながら、人間の心は本能的欲望や衝動による支配を脱しきれないでいる現代の文明社会が招いている危機への挑戦に関してである。ヒンドゥー教と仏教という違いを超えて、共通に有している人間の心への洞察と、その本能的・盲目的衝動を克服せんとする英知の開発の伝統は、かならずや、現代の危機に対する人類の挑戦に資するであろうとの合意が、この対話を生み出したといってよい。
この観点から、この対話は、ヴェーダ神学からウパニシャッド哲学、仏教へと思想的系譜をたどりながら、その底流にある精神的伝統を浮かびあがらせ、この精神文明が人類にとって、いかなる貢献をなしうるかを明らかにしようとしたものである。
概括的であるため、専門の研究者の方々から見れば、物足りないとの印象は避けがたいであろうが、より多くの人々に、東洋の精神文化の伝統についての認識・理解をもっていただき、現代のあまりにも技術主義・物質主義に走って、人間の真の姿を見失った文明への反省を呼びさますよすがともなればとの願いから、世に問うことを決意したのである。
本書が一つの契機となって、人類精神文化の蘇生への努力が、多くの人々によって涌き起こることを心から期待してやまない。
なお、本対談の編集・翻訳作業に当たった桐村泰次、松田友宏、川守田素樹、外川進、佐々木日出男の諸氏の労に心からの謝辞を述べたい。
カラン・シン 池田大作
目 次
- 第1章 インド思想の源流
- インダス文明のアーリア人への影響
- 初期アーリア人の社会
- アーリア人の宗教的発展
- ヴェーダの神々
- 「デーヴァ」と「アスラ」
- インド宗教の両極性
- 古代インドの宗教と近代ヨーロッパ
- 第2章 ウパニシャッド哲学の発展
- ウパニシャッドヘの発展の起因
- ウパニシャッドの修行法
- ブラフマンとアートマンの概念
- 人生の4段階観
- ウパニシャッドと仏教の相違
- 遁世による解脱観
- 輪廻観の起源
- 輪廻観―インドとエジプト
- 神話から哲学への推移
- 第3章 仏教とインド社会
- 釈尊の生没年
- 仏教の革新性
- 仏教の隆盛期と栄光
- 大乗仏教の特質
- カシミールと仏法東漸の道
- アショーカ王と西方世界
- アショーカ王の平和思想
- ミリンダ王と対話の精神
- ガンダーラ文化と西方世界
- 第4章 仏教の伝播
- インド仏教衰滅の原因
- 都市型宗教の脆さ
- 民衆からの遊離
- 富の蓄積と僧侶の堕落
- 人間平等観の系譜
- 仏教のアジア各地への流伝
- 仏教のインド文化への影響
- 現代インドにおける仏教の復興
- 第5章 東洋の英知と人類の未来
- 現代の文明的課題
- 東洋を向く西洋
- 法華経と釈尊の真意
- 宝塔と生命の尊厳観
- 仏寿の久遠の意味するもの
- 三世十方の仏土と宇宙観
- 煩悩のとらえ方の転換
- 生死の流転思想
- 東洋の復興と英知の回復
カラン・シン
1931年生まれ。父君は北インド・カシミールの藩王。カシミール大学を卒業、デリー大学で博士号を受ける。1949年から18年間、ジャンム・カシミール州の首長を務め、1967年、36歳で下院議員に。インド最年少の閣僚として入閣。その後、下院4期連続当選。観光・民間航空相、健康・家族計画相、教育文化相を歴任。ジャンム・カシミール大学とベナレス・ヒンドゥー大学、ネルー大学の総長、ICCR(インド文化関係評議会)会長、世界ヒンディー語財団会長を務め、科学、哲学のエッセー等、著作も多い。
【トピックス】
「英語版」「タイ語版」を発刊
■オックスフォード大学出版局・インドが「英語版」を発刊
■クレッド・タイ社が「タイ語版」を発刊