【シリーズ18】『梵文法華経写本 (C4)校訂本―ネパール・ギルギット・中央アジア系写本異読対照』

本書は、1994年の「法華経写本シリーズ」出版委員会発足以来、着実に研究・発刊を重ねてきた同シリーズの到達点とも位置付けられるものである。同シリーズは、これまでに発見されてきた膨大な量の法華経写本を正確に解読・整理し、異同を比較・分類した成果を発信することが目的であった。そうしたなかで今回、「ケンブリッジ大学図書館所蔵梵文法華経写本 Add. 1683」(C4) のローマ字校訂本として発刊をすることができ、C4テキストと他の主要な写本を対比し、6,200以上もの異同を列挙することができた。

 

本書のもう一つの目的は、このテキストの読みと異なる伝承をもつ中央アジア系のいわゆるカシュガル写本(略号Ka) とファルハード・ベーグ写本(略号F)のローマ字テキストをC4のテキストと検証比較し、それぞれの違いをサンプルとして、各章末の注記(Notes)に正確に記述することである。さらに、データベースとしての客観性を高めるために、ネパール系写本の源流と考えられるギルギット系写本4本(略号Ga, Gb, Gc, Gk)とC4以外のネパール系写本6本(略号C3, C5, K, N2, Pe, R)のテキストも併記した。ギルギット系写本は断片・断簡が多く、それらの書写年は、6 世紀後半以降と考えられている。C3は、ネパール系の最古の写本(10世紀頃)であるが、11章の後半(KN 254.2—)以降は未発見であるので、その失われている箇所はPe写本で補充している。

 

こうした手法は、本シリーズで初めて採用されたものであり、世界のインド学・仏教学の諸賢に、さらに広く思想界、宗教界、および一般の広範な人々に、その評価を問うものであり、梵文法華経の文献学的研究に大きく貢献できるものと考える。

 

法華経写本シリーズとしては、2019年発刊の『ギルギット・ネパール系梵文法華経写本校訂本(C3校訂本)』に続く2冊目の校訂本となるが、「C3校訂本」が法華経の前半部分(宝塔品第11の途中まで)であるのに対して、今回の「C4校訂本」は、全体の27品であり、法華経完本の全ての写本系統を網羅した校訂本となった。経典は同一であっても、伝承の過程で異読、誤写が発生することは避けられず、梵文法華経写本の研究においても、いくつかの異読から最適と判断する読みを検討し、本文を確定する“校訂”の試みが行われてきた。梵文法華経の校訂本としては、これまで「ケルン・南條本」(1908―1912年)、「荻原・土田本」(1934―1935年)、「ダット本」(1953年)などがあるが、今日の学問的水準からみると、より正確で信頼に足る校訂本が望まれていた。

 

本書は、そうしたなかにあって待望された校訂本であり、編著者である当研究所の小槻晴明委嘱研究員の長年にわたる研究成果の結実である。さらに、創立者・池田SGI会長が示した「信仰体系としての仏教にとどめるだけでなく、そこに学問的英知の光をあて、仏教の真髄、普遍的価値を明らかにすること」を具現化した一書である。

 

『梵文法華経写本 (C4)校訂本―ネパール・ギルギット・中央アジア系写本異読対照』
創価学会「法華経写本シリーズ」18  ※シリーズ2が写真版、ローマ字版1、ローマ字版2に分かれているため、シリーズのナンバーでは18、出版の通巻では20点目となる。

発行者:創価学会、公益財団法人東洋哲学研究所

発行日:2023年(令和5年)11月18日

ISBN:978-4-88417-104-9

編著者:小槻晴明(東洋哲学研究所委嘱研究員)

写本系統:ネパール系写本

出版形態:サンスクリット語、日本語、英語

ページ数:XXXVI(前付けなど) + 796(本文他)=832

非売品 


目次

 謝辞

 序

 略号一覧

 凡例

 C4ローマ字校訂本および注

 I. 序品

 II. 方便品

 III. 譬喩品

 IV. 信解品

 V. 薬草喩品

 VI. 授記品

 VII. 化城喩品

 VIII. 五百弟子受記品

 IX. 授学無学人記品

 X. 法師品

 XI. 見宝塔品

 XII. 勧持品

 XIII. 安楽行品

 XIV. 従地涌出品

 XV. 如来寿量品

 XVI. 分別功徳品

 XVII. 随喜功徳品

 XVIII. 法師功徳品

 XIX. 常不軽菩薩品

 XXI. 陀羅尼品

 XXII. 薬王菩薩本事品

 XXIII. 妙音菩薩品

 XXIV. 観世音菩薩普門品

 XXV. 妙荘厳王本事品

 XXVI. 普賢菩薩勧発品

 XXVII. 嘱累品



 C4・KN対照表

 付録 I

 付録 II

 参考文献

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