◆主催:東洋哲学研究所、ソフィア大学 エレナ・イヴァン・ドゥィチェフ記念スラヴ・ビザンティン研究所
◆協力:エレナ・イヴァン・ドゥィチェフ基金
◆会場:ソフィア大学(ブルガリア・ソフィア)
◆開催日:2011年11月25日
概要
東洋哲学研究所創立者に「栄誉賞」
シンポジウムに先立ち、アクシニア・ジュロヴァ博士(スラヴ・ビザンティン研究所前所長)が代表を務めるエレナ・イヴァン・ドゥイチェフ基金から、東洋哲学研究所創立者・池田SGI会長に対し、同基金第1号の「栄誉賞」が贈られた。これは創立者の長年にわたる文化・教育・学術交流への貢献をたたえたものである。
シンポジウムでの発表は次の通り。
(1)山崎達也(東洋哲学研究所研究員)「否定神学と空の論理――否定性について」
(2)二宮由美(東洋哲学研究所研究員)「物質文明を超えて、生命尊厳の思想に向かって」
(3)アクシニア・ジュロヴァ(ソフィア大学教授/スラヴ・ビザンティン研究所前所長)「ブルガリア・ボリス王とシメオン王の図像学の再考――国家と宗教の視点から」
(4)エミル・イワノフ(ソフィア大学准教授)「偽ディオニシオス・アレオパギテースとグレゴリオス・パラマスにおける神秘神学的内容の図像学的解釈とマイスター・エックハルトにおけるその主題的受容」
新聞報道から(抜粋)
(聖教新聞2011年12月2日付)
1981年5月。東洋哲学研究所創立者である池田SGI会長は、建国1300年の祝賀に包まれたブルガリアを訪問。首都に立つ同国最高峰のソフィア大学へと向かった。
同大学はブルガリア最古の学府。SGI会長は仏教指導者として記念講演に臨んだ。
「東西融合の緑野を求めて」と題する講演の中で、こう語った。
「このバルカンの大地に、西洋文明と東洋文明とを融合・昇華させ、新たな人類社会を構築しゆく“カギ”ともいうべき可能性が、感じられてならない」
同大学から名誉博士号を拝受したSGI会長。講演の通りに、東西文明の融合と昇華のため、交流の歴史を切り開いていった。
ジェレフ元大統領と会見。ソフィア大学教授のジュロヴァ博士と対談集『美しき獅子の魂』を発刊。またディチェフ元駐日大使など多くの識者と深き信頼の絆を結んだ。
さらに創価大学はソフィア大学と学術交流を重ね、民音は国立「フィリップ・クテフ」合唱団等を日本に招聘してきた。
初訪問から30年。SGI会長が文明の差異を超えて両国に懸けてきた橋が、シンポジウム開催の礎となった。
記念行事では、東洋哲学研究所の川田所長が、SGI会長のメッセージ(別掲)を代読した。
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シンポジウムには、リュボミル・トドロフ駐日大使から祝福のメッセージが寄せられた。
また、元駐日ブルガリア大使のトドル・ディチェフ氏、ヴェラ・ステファノヴァ元公使をはじめ、スラヴ・ビザンティン研究所のヴァシャ・ヴェリノヴァ所長、同大学のエミル・イワノフ准教授ら学術者100人が出席した。
ヴェリノヴァ所長は「日本とブルガリアの青年が多く参加し、大変うれしい。彼らが、SGI会長の築いた交流の歴史を理解し、引き継いでいってほしい。精神は保持され、次の世代に伝えていくのが重要なのですから」と語った。
池田大作SGI会長のメッセージ
ビザンティン学の泰斗として世界的に著名なイヴァン・ドゥイチェフ博士の名を冠するスラヴ・ビザンティン研究所と東洋哲学研究所との共同シンポジウム「東洋と西洋の文明間対話」の開催、まことにおめでとうございます。
30年前の1981年5月、ブルガリア建国1300年を祝う式典に参加するため、私は貴国を訪れる機会に恵まれました。その折、光栄にも、ソフィア大学で「東西融合の緑野を求めて」と題して、講演をさせていただきました。
「平和の旗」の記念塔で多くの少年少女たちとともに聴いた平和の鐘の音も、今なお私の胸中深く鳴り響いています。また、プロヴディフ市では樅の木の記念植樹をさせていただきました。この樅の木は、現在、立派な大樹となり、近隣の人々にも親しまれていると、うかがっております。そして忘れられないのは、プロヴディフの少年合唱団の澄んだ力強い歌声です。その後も貴国の皆さまと、文化と教育と友情の黄金の橋を幾重にも築かせていただいていることに、心より感謝申し上げます。
スラヴ・ビザンティン研究所前所長のアクシニア・ジュロヴァ博士とは、これまで有意義な懇談の機会をもたせていただいております。ブルガリア民族の精神文化を熟知されている碩学との対話は、言語、音楽、芸術、文学、更に世界宗教の可能性など、多岐にわたりました。博士との語らいは対談集『美しき獅子の魂』として、日本語とブルガリア語で出版されています。また博士からは創価大学へ貴重な図書をご寄贈いただき、重ねて衷心より御礼申し上げます。
大乗仏教の華厳哲学では、「因陀羅網」を引用して、人類文明の在り方を表現しております。
帝釈天(因陀羅)の住む宮殿には、大きな美しい網がかけられており、それを「因陀羅網」といいます。この網には無数の網目があり、その一つ一つに光り輝く宝石が結びつけられています。それらの宝石は、それぞれ独自の姿と光彩を四方に放っており、多種多様な光線が相互に交りあい、新たな色彩を創造していきます。こうして網全体は、荘厳な光景を描き出しているのです。
この譬えで示されているとおり、「縁起」とは「相依相資」のことであり、相互に依存しあい、資(たす)けあいながら、ともに創造的に変革しゆく共生のあり方をさしています。
因陀羅網の網目にかかる独自の宝石を各民族の精神文化とすると、この地球には、数多くの独自性を保つ文化・文明からの光線が放たれております。これらの光線をともに強めあいながら、人類の平和と共生のために、創造性を高めていくのが、「文明・文化間の対話」の本来の姿ではないでしょうか。
また、法華哲学のなかにも、万物共生の思想が説かれております。
「一地の生ずる所、一雨の潤す所なりと雖(いえど)も、諸の草木に各おの差別有り」――この経文は、「法華経」の薬草喩品で描かれている「三草二木」の譬えの一節です。ここでは、大地に繁茂する多様な木や草が、天から降り注ぐ雨の恵みを受けながら、それぞれの特性を発揮して異なった花を咲かせ、実をたわわにつけている、豊饒な「共生のイメージ」が描かれています。色も形も多様な花々が咲き薫るほど、花園が美しく彩られていくように、大宇宙の妙なる律動に合わせつつ、多彩な文化・文明が共栄しゆくイメージこそ、人類が目指すべき世界観でありましょう。
ブルガリアは古来より、東西文明の融合の地であるバルカン半島に位置し、原ブルガリアのヴァルナ文明を栄えさせ、スラヴ文化、東方キリスト教のビザンティン文明を融合し、独創的な精神文化を形成してきております。そして今日、西洋物質科学文明と邂逅しているのであります。
一方、日本は極東に位置し、古来の神道のうえに韓半島、中国大陸から仏教、特に大乗仏教を、儒教、道教とともに受容し、さらに西洋物質科学文明をとり入れつつ、独自の日本文化を形成してきました。
今回のシンポジウムは、近代西洋科学技術を生んだ西洋文明圏以外の2つの偉大なる文明圏――スラヴ・東方キリスト教文明と大乗仏教文明の「対話」であります。
ジュロヴァ博士は、私との対談集『美しき獅子の魂』の「あとがき」で「新たな世界はもはや一極的なものではなく、寛容や、各々の国および個人の文化的伝統、精神的価値を基盤とすべきものである、と私は希望しています」と結論づけられております。
ジュロヴァ博士が言われるように、2つの偉大な文明圏には、異なる文化への寛容の精神、大自然との共生の思想が息づいています。同時に、豊かな精神性、倫理性を生み出す人類愛、智慧、勇気、忍耐力、信頼、希望などの「善心」を育んできた歴史があります。
ブルガリアと日本は、それぞれの文明にそなわる偉大な精神性を人類の平和共存のために生かしながら、現代の西洋物質文明をも包含しゆく、人間性に輝く「地球文明」の創出へ、重要な役割をなすことができることを私は確信しております。
結びに、ソフィア大学、並びにスラヴ・ビザンティン研究所の無窮の発展と、イヴァン・イルチェフ総長はじめご臨席の皆さま方のますますの御健康と御活躍をお祈り申し上げ、御礼とさせていただきます。