ヨーロッパ科学芸術アカデミーと共同シンポジウム
◆テーマ: 生と死
◆主催:ヨーロッパ科学芸術アカデミー、東洋哲学研究所
◆会場:ドイツ総合文化センター(ヴィラ・ザクセン)
◆開催日:2007年9月15日
シンポジウムは、東洋哲学研究所創立者の池田SGI会長とヨーロッパ科学芸術アカデミーのフェリックス・ウンガー会長の対談集『人間主義の旗を――寛容・慈悲・対話』(東洋哲学研究所刊)の発刊を記念するもので、以下の発表が行われた。
第1部:医学的観点からの「生と死」
- 木暮信一:東洋哲学研究所研究員・創価大学工学部教授
「生命の始まりと終わり――〝呼吸〟を重視した生命観」 - ドリス・ザトラー:ホスピス看護師
「開いた眼差しと励ます心をもって――重篤患者への看護体験」 - フェリックス・ウンガー:ヨーロッパ科学芸術アカデミー会長
「医学的見地からの生と死」
第2部:哲学的・神学的観点からの「生と死」
- 川田洋一:東洋哲学研究所所長
「仏教の生死観――現代文明への応答のために」 - 山崎達也:東洋哲学研究所研究員
「何故なしの生:エックハルト神学における生の始原」 - カール・ヴォーシッツ:グラーツ大学神学部教授
「死と生――哲学的・神学的考察」
このうち、講演「医学的見地からの生と死」でウンガー会長は、心臓外科医としての体験をふまえて、「医学の使命は患者に奉仕することである」とし、生きる権利は万人に平等に備わっていると強調した。そして、誰もが迎える「死」は、信仰によって乗り越えられるとし、生死という最も深遠な問題を議論することが、人間性の根源にかかわる重要な鍵になると述べた。
また、コメンテーターとして東洋哲学研究所の栗原淑江主任研究員と平良直研究員が参加したほか、来賓としてオーストリア元文部次官のユッタ・ウンカルト=サイフェルト氏らが列席した。
冒頭に行われた、ウンガー会長の「あいさつ」は次の通り。
* * *
ヨーロッパ科学アカデミーを代表いたしまして、ごあいさつをさせていただきます。また、本日はこれほど多くの皆さまに参加していただき、まことにうれしく思っております。ここビンゲンは非常に多くの伝統、つまりはヨーロッパ文化におけるまさに精神のすべてが凝集しておりますが、この景勝の地においてシンポジウムを開催することはすばらしいことです。
東洋哲学研究所の川田所長には心からごあいさつ申し上げます。私たちは数年来、共同作業を集中的にしてまいりました。また本日、川田所長から池田SGI会長と私との対談を記録した『人間主義の旗を―寛容・慈悲・対話』(東洋哲学研究所刊)および『世界が見た池田大作』(東洋哲学研究所編、第三文明社刊)の2冊の書籍をいただき、まことにうれしく思っております。
川田所長から書籍をいただいた際に、一枚の写真も見せていただきました。それは、2001年9月15日にウィーンで行われた宗教間対話の模様を写したものです。この写真が撮られるちょうど4日前に起きた同時多発テロのような惨劇を二度と起こしてはならない、このことが実は私たちが共に目指そうとしていることなのです。この写真はそのことを如実に物語っています。
池田SGI会長を存じ上げてからすでに数年経過しておりますが、この間、私は妻と共に東京でたびたび池田会長にお会いさせていただきました。このことは私たち夫婦にとりまして、たいへんすばらしい経験となりました。
池田会長との出会いは常にすばらしい光輝に満ちたものでした。それは、ひとえに池田会長が慈悲深い温かさをもって、私たち人類が抱える大きな問題を見すえていらっしゃることによると思われます。
本日のシンポジウムでは、統一テーマである「生と死」を中心として、人間主義、寛容そして慈悲について語られることになるでしょう。これらについては東京にて私たちは池田会長と詳細に話し合いました。そのすばらしき成果は一冊の本となって結実いたしました。
しかしながら最も興味深かったことは池田会長とさまざまな事柄について意見を交換したことでした。そのなかで重要な事柄はやはり寛容ということでした。そして私たちは寛容について次のような結論にいたりました。すなわち、非常にヨーロッパ的表現になりますが、人間をその尊厳において認めるだけではなく、他者の尊厳を擁護するということにおいてのみ、私たちは寛容的な態度をとることができるということです。
これこそが私たちの宗教間対話の核心であり、出発点でありました。そしてこの対話を、皆さまもよくご存知であるミュンヘン大学のオイゲン・ビーザー教授がたいへん熱心にイニシアチブをとられ、さらにグラーツ大学のヴォーシッツ教授が主導されることになりました。
私たちはキリスト教徒、ユダヤ教徒、イスラーム教徒そして仏教徒と宗教間対話を行ってきましたが、しかしこれからは現代社会において最も大きくなった信仰共同体すなわち無神論者とも対話をしていかなければならないでしょう。
と言いますのも、これは池田会長と同じ考えなのですが、私たちはそれぞれの宗教の立場に立ちながらも、共同してグローバルな世界観そして価値観をもつようにしなければならないと思うからであります。それはまた、私たちの言葉で表現されていただければ、私たちの生命と地球を神の愛の賜りものとして受け入れることができるからであります。
本日私たちは、現代社会が抱えているたいへん重要な一局面に関して議論を交わすことになります。
ここで本日のシンポジウムの基調となるべきことを話させていただきたいと思います。先週のことですが、ローマ法王がオーストリアを訪問されました。ウィーンの王宮でのレセプションの際に、法王は人権について話されましたが、それはとりわけ無神論者に向けて、各人にはけっして奪うことのできない権利が備わっていることを呼びかけられたのであります。
最後に私が申し上げたいことは、「橋」の建設は始まりましたが、これから必要とされるものは多くの「柱」であるということであります。私たちの力を合わせれば、必ずできると思います。さて、本シンポジウムの開会をアカデミーで常用される表現で宣言させていただきたいと思います。「会議は開かれた」(Plenum Apertum)。